大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和49年(ワ)5701号 判決 1975年8月14日

原告 全東栄信用組合

右訴訟代理人弁護士 砂子政雄

被告 渡辺喜代子

同 渡辺弘

同 荒木寅義

主文

1.被告らは、原告に対し、金二七九六万五三七円及びこれに対する昭和四九年六月一三日から完済に至るまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。

2.訴訟費用は被告らの負担とする。

3.この判決は、かりに執行することができる。

事実

第一、当事者の申立

一、原告

主文第一、二項同旨及び仮執行の宣言

二、被告ら

1.原告の請求を棄却する。

2.訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求の原因

1.訴外全国信用協同組合連合会(以下「全信連」という。)は、昭和四八年三月一〇日、原告をその代理人として、被告渡辺喜代子との間で、手形貸付、証書貸付等の方法による継続的取引契約を結び、その際、被告渡辺弘、同荒木寅義は、被告喜代子の負担すべき債務を連帯して保証した。

2.原告は、右同日、全信連に対し、被告喜代子において全信連に対して負担する債務を履行しなかったときはその債務の保証責任を負担することを約し、その際、被告らは、原告に対し、原告において全信連に対する保証債務を履行したときは、その支払金額(元利金、損害金等)につき支払の日以後完済に至るまで年一四・六パーセントの割合による損害金を支払うことを約した。

3.全信連は、右同日、被告喜代子に対し、1の取引契約に基づき、金三〇〇〇万円を次の約定で貸渡した。

(一)最終弁済期 昭和五八年三月三〇日

(二)支払方法 昭和四八年四月三〇日以降毎月三〇日に金二五万円ずつ一二〇回に分割して支払う。

(三)利息 右同日以降元本の割賦金支払の日に年利九パーセントを一か月分後払いで支払う。

(四)期限の利益の喪失 割賦金等の債務を期限に弁済しなかったときは、通知催告を要しないで残債務について期限の利益を失い、直ちに債務を弁済 済する。

(五)期限後の損害金 年利一四・六パーセント

4.被告喜代子は、昭和四九年三月三〇日に支払うべき第一三回目の割賦金及び同月分の利息を支払わなかったため、同日をもって期限の利益を失い、当時の貸付残元金二七二五万円全額につき期限が到来した。

5.原告は、昭和四九年六月一三日、前記保証債務の履行として、全信連に対し、貸付残元金二七二五万円及び昭和四九年三月以降の利息金として六九万七四三七円、損害金として一万三一〇〇円合計二七九六万五三七円を弁済して免責を得た。

6.よって、原告は、被告らに対し、右代位弁済による求償金二七九六万五三七円及びこれに対する約定利率による遅延損害金として弁済の日である昭和四九年六月一三日から完済に至るまで年利一四・六パーセントの割合による金員の支払を求める。

二、被告喜代子の答弁

請求の原因事実1ないし3は否認する。同4、5は不知。

三、被告弘の答弁

1.請求の原因事実1ないし4は否認する。5は不知。

2.本件取引契約及び右契約に基づく消費貸借契約において借主として主たる債務者になった者は、被告弘であり、同被告は原告主張の金員を借受けたが、その主張のとおり割賦金の支払ができなかったものである。

四、被告荒木の答弁及び抗弁

1.請求の原因事実1のうち被告荒木が連帯保証をした事実は否認する。その余は不知、同2ないし5は不知。

2.仮に被告荒木が連帯保証をした事実が認められるとしても、右保証は同被告の錯誤に基づくものであり、錯誤は要素に関するから無効である。

すなわち、被告荒木は、被告弘からアパート式建物の建築を依頼されてこれを請負ったのであるが、同被告からその建築代金の融資を受けるにつき、融資をする原告に対して、間違いなく建築工事を完成させることを保証する旨の保証書を差入れてほしい旨の依頼を受け、同被告とともに原告の店舗に赴き、その趣旨で関係書類に署名捺印をしたのである。なお、右捺印はすべて原告の係員である馬場某によりなされた。以上のように、被告荒木の真意は工事の完成を保証するにあったから、錯誤に基づくものである。

五、被告荒木の抗弁に対する原告の認否

抗弁事実は否認する。

第三証拠関係<省略>。

理由

一、被告喜代子、同弘に対する各請求について

1.<証拠>によれば、原告主張の請求原因事実どおりの事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない(被告弘は、主たる債務者は被告弘であると主張するが、前掲証拠によれば、被告喜代子は夫である被告弘とは別に縫製加工業を営んでおり、右被告らにおいて被告喜代子の名で借受けをしたい旨申入れ、原告もこれを承諾し、本件契約が締結された事実が認められる)。

2.しかして、原告主張の約定によれば、被告喜代子は、原告による代位弁済の日までに、残元金二七二五万円のほかに、昭和四九年三月一日から同月三〇日までの年九パーセントの割合による三〇日分の利息金二〇万一五七五円(円未満切捨)、同月三一日から同年六月一二日までの年一四・六パーセント、七四日分の遅延損害金八〇万六六〇〇円合計一〇〇万八一七五円の支払義務を負担した筋合であるが、原告が弁済し、右被告らに求償する金員はその範囲内の金額であるから、原告の同被告らに対する本訴請求は全部理由がある。

二、被告荒木に対する請求について

1.<証拠>によれば、原告主張の日に原告が代理する全信連と被告喜代子との間で、原告主張の継続的取引契約が締結され、この契約に基づき、被告喜代子が全信連から原告主張の約定で三〇〇〇万円を借受けたこと、<証拠>によれば、原告は、請求の原因2記載のとおり、全信連に対し被告喜代子が全信連に対して負担する債務につき保証をしていたが、同被告がその債務中残元金二七二五万円と昭和四九年三月分の利息の支払を怠ったため、特約によって残債務につき期限が到来したにも拘らず、その支払をしなかったところから、同年六月一三日請求の原因4記載のとおり、全信連に対し、残元金を含め二七九六万五三七円を支払ったこと、以上の事実が認められ、これに反する証拠はない。

2.<証拠>によれば、被告荒木は、昭和四八年二月一九日頃、被告弘とともに原告大森支店に同日付の印鑑証明書と実印とを持参し、全信連と被告喜代子との間の取引約定書(甲第一号証)、同抵当権設定金銭消費貸借契約証書(甲第二号証)の各連帯保証人欄、保証確認書(甲第三号証の二)の保証人面接欄、保証人の住所氏名欄、保証承諾書(甲第四号証の二)の住所氏名欄にそれぞれ住所、氏名を記載したうえ、所定の部分に同被告の実印を押捺した事実、これらの書面は、いずれも被告喜代子が全信連から金銭を借り受けるための保証を約するに必要な用紙であり、同被告においてことさら右書面を改めてみなくても、例えば右甲四号証には同被告の署名すべき部分の上欄にこのことが明らかにされている事実、また、証人荒木克明の証言によれば、甲第五号証(被告らが連署して原告に差入れた代理貸付保証約定書)の連帯保証人欄になされた被告荒木名義の署名捺印は、被告荒木のため同被告の実印を預って同被告の家業である建築請負業の経理一切を委されているその長男荒木克明が同被告のために代ってなしたものであるところ、同書面には原告が被告喜代子に代って同被告の債務を支払ったときに生ずる求償債務についての約定が記載されていることがそれぞれ認められる。しかるところ、被告荒木は、右各書類に署名、捺印をしたのは、自分が被告喜代子ないし同弘のために融資金をもってアパートを建築すべく請負契約を締結したところから、被告弘に依頼され、右工事を完成することを原告に保証したにすぎないものと主張し、前記証人荒木克明の証言及び被告荒木の証言中にはその趣旨にそう供述があるが、被告荒木が前示のような金銭保証の趣旨を明らかにした書面に署名、捺印をしている事実や証人亀井利夫の証言に徴するときは、右証人や被告荒木本人の各供述はにわかに措信しがたく、その署名、捺印の際、同被告にその主張のような錯誤があったとは到底認めがたい。そして、他に同被告主張の錯誤の存在を認めるに足りる証拠はない。以上の次第であるから、同被告の抗弁は採用することができない。

以上の事実によれば、被告荒木は、被告喜代子が全信連から借受けた三〇〇〇万円の債務につき原告主張のとおり連帯保証をするとともに、原告が被告らに代って全信連にその債務を支払ったことにより被告らに対して取得する求償債権につきその支払の日以後完済に至るまで年一四・六パーセントの割合による遅延損害金を支払うことを約したものと認めるのが相当である。

3.しかして、原告の主張する求償債権額が本来被告らにおいて全信連に支払うべき債務額の範囲内であることは、一、2に説示したとおりであるから、原告の被告荒木に対する本訴請求もまた全部理由がある。

三、以上の次第で、原告の被告らに対する請求は全部理由があるものとしてこれを認容すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉井直昭)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例